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東京地方裁判所 昭和41年(ワ)7336号 判決

原告

株式会社佐竹製作所

右代表者

佐竹利彦

右訴訟代理人

柏木薫

川津裕司

右輔佐人弁理士

牧順四郎

被告

株式会社東洋精米機製作所

右代表者

雑賀和男

右訴訟代理人

安原正之

中村弘

佐藤治隆

右輔佐人弁理士

福田武通

主文

原告の請求を棄却する。

訴訟費用は、原告の負担とする。

事実《省略》

理由

一原告が訴外Sから本件実用新案権の譲渡を受けて、昭和三八年一〇月一八日からその権利者であることについては当事者間に争いがない。

二本件実用新案公報によれば、本件考案にかかる横型精穀機は、

1  前後左右を鉄板壁によつて函体を形成すること

2  その函体の壁板に窓孔を開設すること

3  函体に装架された精白室機枠の精白転子の主軸を前記窓孔から函体の外部に突出させること

4  函体の上部空室に穀槽の落下口を内装すること

を構成要件とするものと認められる。

三本件物件を表示したものであることについて当事者間に争いのない別紙目録の記載によれば、本件物件は、横型精米機であつて、その構成は、

(イ)  前後左右を鉄板壁によつて函体を形成し、

(ロ)  その函体の壁板に窓孔が開設され、

(ハ)  函体の中央部分に、平面長四角状のアングルの枠7aを取り付け、その枠およびその枠の中間に設けられた仕切板には軸受24aおよび25aが設けられ、その軸受によつて主軸9aが支持され、その一端には精白転子8aが止着され、精白転子融8aを囲続する精白箇18aは、筒状をした多孔板によつて精白室を構成し、精白転子8aに続く主軸9aは(ロ)記載の窓孔から函体の外部に突出しており、

(ニ)  函体の上部空室に穀槽の落下口を内装している

ものであると認められる。

四そこで、本件考案の構成要件と本件物件の構成とを比較すると、前者の構成要件のうち1、2および4が後者の構成の(イ)、(ロ)および(ニ)とまつたく同じであることは明瞭である。

五被告は、本件物件は、本件考案の前記3の要件のうちの函体に装架された精白室機枠という構造を有していないから、本件物件は本件考案の技術的範囲に属しないと主張するのに対し、原告は、本件物件における平面長四角状のアングル枠7aは本件考案における函体に装架された精白室機枠であるというので、この点について判断する。

特許請求の範囲に、「函体5に装架した精白室機枠7の精白転子8の主軸9」という記載があるところから考えれば、被告主張のように、精白室機枠の密接部分に精白転子が存在することが本件考案の要件となつているものと認めることができる。このことは、右公報、ことにその添附図面第七図、第八図によりこれを認めることができる。すなわち、右図面および実用新案の説明の項中「精白室機枠7に設けた給穀口15」の記載によれば、精白室機枠7は、多孔壁筒18をもつて形成された精白室17を上下から保持し函体に装架される精白室17の支持機枠であり、給穀口部および精白転子8の嵌装部をも一体に構成したものであることが認められる。また、右甲号証の実用新案の説明の項には、原告も自陳するように、本件考案における精白室機枠について、それが独立して特段の作用効果を有するとの点については全然言及されておらず、その作用効果の上からもこれをいかなる具体的構成のものと解するかに手だてがない以上、この点も、精白室機枠の構造は、図示のようなものに限られるとする前説明の解釈を支持するものとすることができる。

本件物件は、本件考案の構成要件の一つである右に述べたような精白室機枠を有していないから、この点で本件考案の技術的範囲に属しないものということができる。本件考案における精白室機枠の作用効果は、本件考案における精穀機自体の構造から考えると、精白室の機枠としてこれを補強すると同時に函体自身をも補強することにあると認められるが、本件物件における枠7aの作用効果は、被告主張のように、軸受24a、25aおよび主軸9a、精白転子8aならびに精白筒18aを支持するとともに、函体を補強し、作動時における機構の振動を防止することにあり、精白室の機枠としてこれを補強するような効果はないものと認められる。

六出願公告昭三一―九八一九号特許公報、同昭三一―五二六二号実用新案公報、同昭三三―一八九四六号実用新案公報中の各記載ならびに弁論の全趣旨を総合すると、本件考案の前記構成要件のうち、1の前後左右を鉄板壁によつて函体を形成すること、2の、函体の壁板に窓孔を開設すること、3のうち、精白転子の主軸を窓孔から函体の外部に突出させること、および4の、函体の上部空室に穀槽の落下口を内装することは、いずれも本件考案の実用新案登録出願の日前から公知であつたと認められるから、本件考案の新規な点は、前記のような構造を有する精白室機枠を函体に装架した点にあるということができ、本件考案の特徴もまたこの点にあるといえる。そうすると、本件物件が前記本件考案の構成要件のうち1、2および4ならびに3のうち精白転子の主軸を窓孔から函体に装架された精白室機枠という構成要件を備えていない以上、本件物件は、本件考案の技術範囲に属しないものというべきである。

七以上説明のとおり、本件物件は、本件考案の技術的範囲に異しないから、これが属することを前提とする原告の本件請求は、その余の点を判断するまでもなく失当である。よつて、これを棄却することとし、訴訟費用の負担について民事訴訟法第八九条を適用し、主文のとおり判決する。

(荒木秀一 高林克己 清水利亮)

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